ここ数年、アウトソールが強く湾曲し、つま先とかかとが少し浮き上がったカーブ形状のシューズが増えてきている。強く蹴り出さなくても、かかとからつま先への体重が楽にでき、無用な体力を使わずに前方へ体が自然に運ばれていく……という発想から生まれたデザインだ。
多くの人の足に合う、丸みを帯びたフォルム
そんなトレンドのなかで生まれた新作がKEEN.CURVEテクノロジーによって開発された「450ダート」。キーンは人気が高い「WK400」というウォーキングシューズを一昨年に発売しており、“アウトソールがカーブしたシュ-ズ”では最先端を行くブランドのひとつで、それだけにこの450ダートも完成度が高い。それも「ダート(dirt)=土、泥」というだけあって、自然の中のトレイルで使いやすいように設計されている。片足370gという軽量性も注目すべきポイントだ。
“湾曲”の目安となる「450」という数字
ところで、450という数字は何を表しているのか?
“円の一部”がイメージできるアウトソールのカーブ
これは「半径450㎜の円」が描く曲線のこと。450ダートはそのカーブがアウトソールに反映されている。半径が長くなればなるだけ湾曲は平面に近づいていくため、先に述べた「WK400 」と「450ダート」を比較すれば、450ダートのほうがカーブは緩やかということになる。
では早速、足を入れてみよう。
つま先付近は広く、指先が当たりにくい
おやっ?と思ったのは、見た目ほどアウトソールの湾曲性を感じないことだ。つま先とかかとがかなりせり上がっているため、前後に体がグラグラしそうなものなのだが……。とくにより体が不安定になる、片足で立ったときでもフラつきにくいのは意外だった。
その“グラグラしない”理由は、横から見るとわかりやすい。
両足で立っているとき(左)以上に、片足で立つ(右)と体重がかかる
450ダートは非常に弾力性が高いミッドソールを採用しており、体重をかけると、程よく沈み込んでくれる。そのために、両足で立って体重をかけると(上の写真の左側)アウトソールの湾曲が“450”よりも緩やかになる。さらに片足だけに体重がかけた状態(上の写真の右側)だと、いっそう湾曲は緩やかだ。だから、ただ立っているだけのときは十分な安定感を得られるのである。
だが、それでは結局、普通のシューズと変わらないのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれない。そこで、まずは歩いた感じがいちばんわかりやすい、まっ平らな木道の上でテストをしてみた。
まずは水平に近い木道で試し歩き!
すぐにわかったのは、これはやはり一般的なアウトソールのシューズとは歩行感がかなり異なるということだ。
立っている状態から一歩踏み出して体重が前方へ移動し始めると、アウトソールの湾曲性が復活。そのカーブによって体が自動的に前へ運ばれていくのがわかる。“自動的に”という表現は大げさだとしても、あまり力を使わなくても自然に体が前方に運ばれていく感覚なのである。この内部には、つま先からかかとまで湾曲したプレートが入っているそうで、その力も加わって理想的なカーブをコントロールしているようだ。
これはおもしろい!
“前方へ体が押し出される”ような感覚
この“かかとで着地”し、湾曲させたアウトソールで“前方へ体重を移動”させ、最後に“つま先で蹴りだす”という一連の流れを写真で表現すると以下のようになる。
1.かかとで着地
2.次第に体重を前方へ
3.そして、つま先で蹴り出す
アウトソールが湾曲していることによって、スムーズに体重移動が行われ、楽に歩けていることがイメージできるのではないだろうか? 一般的なトレッキングシューズやトレイルランニング系シューズのアウトソールも、つま先やかかとが少しせり上がってはいるものの、“前方への体重移動”という機能性は450ダートほどではない。
木道が続く遊歩道を快調に進む
一方で、先に紹介した同社の「WK400」はアウトソールの両端がよりせり上がっているウォーキングシューズだが、これは同じような路面がいつまでも続く舗装路での使用がメイン。木道の先には土がむき出しになったトレイルが続いていたり、登り下りの起伏も多かったりと、さまざま地面が想定される自然のなかでは、そこまで湾曲しすぎていると歩きにくくなってしまう。
木道を進み続けると、トレイルは土の地面に
その点、450ダートのアウトソールのカーブの具合は絶妙だ。木道に限らず、けっこうな傾斜がある登山道でも違和感なく歩けるのである。
じつはテスト前、僕はこのようにカーブしたアウトソールのシューズは、山中では歩きにくいのではないかと危惧していた。だが、その予想は完全に外れた。ミッドソールが程よくつぶれてくれるからか、上り下りではよい意味でシューズの湾曲性をほとんど感じず、一般的なトレイル用のシューズのような感覚なのだ。言い方を変えれば、450ダートの湾曲性が生きてくるのは木道や遊歩道のような起伏が緩やかな場所であり、それ以上に起伏が強く、足を大きく上げ下げしなければ歩けないような場所では、アウトソールの湾曲性はあまり関係なく、一般的なトレイル用シューズと比べても違和感がない、自然な歩行感を得られるのである。
木道以上に、ナチュラルな土の地面で実力を発揮!
そんな450ダートだが、さすがは“ダート=土”。
地面の細かな凹凸をとらえる450ダートのアウトソール
土の地面の上ではアウトソールのグリップ力がいっそう生かされ、上々の歩き心地だ。
アウトソールのラグのパターンを見ると、地面に触れる“凸”の面積は少なく、それらの間も離れているのがわかる。
凹凸の段差を控えめに設計したアウトソールのパターン
そのために“凹”の部分に付着した土は落ちやすい。この特徴は雨水などで湿った土や泥には、とくに効果を発揮する。
このアウトソールは、石や岩の上でも滑りにくかった。
石や岩が露出し、歩きにくいトレイルを行く
適度に柔らかく、少し粘りのような効果も感じさせる素材もよいのだろう。
乾いた岩の上でのグリップ力は、土の上以上
450ダートは、あくまでも“ダート”であって、“ロック”ではないのだが、岩場でも予想以上の実力発揮してくれるのはありがたい。
耐摩耗性が高いアッパーも岩場で活躍
とはいえ、アウトソールの湾曲性を生かすデザインのため、キーンのシューズの特徴である頑丈な「トゥ・プロテクション」はなく、つま先の保護性はそれほど高くはない。
つま先は樹脂のコーティングで補強
難路を歩くことが多く、つま先の保護機能を強く求める方は、同じキーンでもネクシスシリーズのようなシューズをお勧めしたい。
ミッドソールの衝撃吸収力と程よい弾力性
山中の段差がある場所では、ミッドソールの弾力性の高さを再認識した。
木段が続くと、足腰へのダメージは蓄積する
着地したときの“ドンッ”という衝撃が緩和され、足腰への負担が大きく軽減されるのである。かといって弾みすぎるようなことはなく、適度な印象だ。
見るからに分厚いミッドソールのかかと部分
少しだけ後ろに突き出したようなミッドソールのかかとの形状も、その効果を高めているようであった。
ところで、450ダートはローカットタイプだが、このようなシューズは下り道を不得意とするものが多い。
登り以上にシューズへの負担が増す、登山道の下り坂
シューズ内部で足が前方へずれてしまい、足首にシューレースが食い込んだり、つま先が圧迫されたりするからだ。
しかし、450ダートのタンには相当な厚みがあり、クッション性も高い。ローカットタイプでは珍しいほどだ。
タンはずれにくく、足首をつねに守ってくれる
そのために、足首へシューレースが食い込むことはなく、しっかりとフィットさせられる。つま先方向への足のずれも抑えられ、下り坂でも調子がいい。
また、長時間履き続けるほどに実感したのが、通気性の高さだ。
目が粗いメッシュで、高通気性のアッパー
“ダート”でも傷みにくいようにとアッパーの耐摩耗性を上げると通気性は下がっていくものだが、これならば蒸し暑い日本でも不快ではないだろう。
歩行中に内外の空気が入れ変わり、湿気が排出されていく
最近は防水性の代わりに通気性を重視し、軽やかに歩けるトレイルランニングやスピードハイク系のシューズが大人気だが、450ダートも負けてはいないようである。
軽快な見た目でも、“使える”シチュエーションは幅広い!
450ダートの最大の特徴は、内部にプレートを秘めた湾曲したアウトソールであることは間違いない。それによって、起伏が緩やかな場所ではスピーディに、かつ体力の消耗を補って歩けるのが大きなメリットである。そして、もともとそれが450ダートの開発コンセプトであるはずだ。
スタイリッシュでスマートなルックス
しかし、僕が実際にさまざまなシチュエーションで試して思ったのは、緩やかなトレイルだけではなく、上り下りの多い登山道でも想像以上に実力を発揮してくれるということ。日本の自然環境であれば、緩やかなトレイルがいつまでも続いているような場所は少なく、起伏ある登山道にも対応できないシューズは使いにくい。その点、450ダートは木道から土、岩の上に至るまで、十分な機能性を持っている。もちろんハードな登山にはもっと適したシューズがあるだろう。だが、日帰りで楽しめる多くのトレイルや低山では、この軽やかな履き心地の450ダートは大いに活躍してくれそうだ。一度は試してみてもらいたいシューズなのであった。
高橋庄太郎(アウトドアライター)
高校の山岳部で山を歩きはじめ、出版社勤務後にフリーランスのライターに。著書に『トレッキング実践学』『テント泊登山の基本テクニック』など。山雑誌やアウトドア系ウェブメディアでの執筆に加え、近年はイベントやテレビへの出演が多く、アウトドアギアのプロデュースも行っている。
Instagram:@shotarotakahashi
【紹介商品】