障がいのある方のアートの祭典「アートパラ」が5回目の開催。主催者と語る、アートがつなぐ人々の絆と喜び
September 06, 2024Sep 06, 2024
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障がいのあるアーティストによる600点以上もの作品を展示するアートイベント『アートパラ深川おしゃべりな芸術祭』(以下略称:アートパラ)が今年も10月19日(土)~27日(日)に開催されます。
アートパラは「共に生きる社会を目指す」をテーマに、障がいのあるアーティストと社会をつなごうと東京下町で世界初の試みとして2020年にスタートしました。今年は隔年開催の全国公募展「アートパラ深川大賞2024」があり、海外を含む過去最多の953点の応募が集まり、注目が高まっています。KEENは3年連続で、フェスティバル・パートナーとしてサポートします。今回の「KEEN STORY」では、今年度の副実行委員長、上野まき子さんを迎え、世界でもめずらしくユニークなアートイベントの魅力やアーティストとの絆について迫ります。
上野さんとお話しさせていただいたのは、KEENのプロダクトシニアスペシャリストの青木泰裕。アーティストや他社ブランドとのコラボレーションを具現化する担当者で、アートパラでもKEEN賞を受賞したアーティストとの商品を企画・製作しています。アートパラを通した、アーティストの方々との出会いや喜び、そして2人の思いを聞きました。
上野:アートパラ参加のきっかけは、開催エリアにある深川に住んでいることでした。お声掛けをいただいて、ボランティアを始めました。私は保健師や看護師として臨床や教育に携わっていますが、障がい福祉につながりがあって参加したというわけではありません。他のメンバーも同じように、地元と障がいのあるアーティストをつなぐ芸術展のコンセプトに共感して参加を始めた人が多いです。私は一昨年からはアーティスト支援の担当をしていて、公募展で入賞したアーティストとの連絡窓口を担っています。
青木:僕は2022年に初めて行きました。その翌年からKEENが企業としてサポートを始めるのですが、どういった作品があるのかなと、コラボレーション企画を立ち上げる視察も兼ねて訪れたことがきっかけです。KEENの活動としてもそれまでに新潟の「大地の芸術祭」や大分の「国東半島芸術祭」といった街や地域をあげて開催される芸術祭に参加させていただいたこともありますが、元々絵を見ることが好きな僕にとってそうした芸術祭は特別な楽しさを感じます。中でもアートパラは、東京の真ん中で、障がいのあるアーティストの方々の唯一無二の緻密なアート作品を、歴史情緒あふれる街並みと、おいしいグルメや人のやさしさを、徒歩圏内でしかも連続的に楽しめるということが衝撃的で(笑)、素敵なイベントだなと思いました。
上野:そうですね。東京都指定名勝の清澄庭園内にある大正記念館や江戸三大祭りが開催される富岡八幡宮、老舗店も多い高橋のらくろード商店街といった古き深川を代表する名所に現代アートが並ぶって斬新ですよね。不思議と違和感もなくて、芸術祭を目的に訪れたわけでなくとも、歩いていると、自然とアートに触れられる。そんなユニークな祭典として海外からお越しくださる方も増えました。
青木:KEENは2003年に自然豊かなアメリカ・ポートランドで創業しました。しかしその翌年にスマトラ島沖地震が発生し、当時のキャンペーン予算100万ドル(約1億円)を全額、津波被災者のために充てることを決断。それを機に社会貢献活動を始めました。企業の社会貢献活動は当時の日本ではまだめずらしかったと思いますが、KEENとしてその行動にはとても意味があります。
アートパラは開催の目的だけでなく、KEENが掲げる「天井のないところすべてがアウトドア」というコンセプトにもマッチしていることが賛同する背景にもありました。また障がいのあるアーティストの皆さんとの出会いは、僕たちにも大きなインスピレーションになりますし、一緒に商品を作ることで彼らの活動の後押しにもなればと思っています。
上野:hell男さんは精神障がいのある方ですが、幼い頃から絵が好きで、とても気さくなキャラクターの方です。今回KEENさんに選んでいただいた作品もA4サイズの紙一杯に「さらさらって描いた」なんて簡単におっしゃっていましたけどね(笑)、でも受賞についてはとっても喜んでいましたよ。授賞式にも予告なしに来てくれて、私たち驚いちゃったんですけど、本当に嬉しそうでした。状況によっては精神的に不安定になり気分の浮き沈みもあって、仕事を続けることが難しい時もあるようですが、今回の受賞が精神的な安定、ひいては生活の安定につながったり、ご家族との関係が良好になったりしているようで、私もよかったなと思っています。
青木:僕はKEENで12年ほど、ブランドやアーティストとのコラボレーション企画を担当していて、これまでたくさんの方と出会い、シューズなどをさせていただきました。企画の立ち上がりから販売までは、約500日ととても長い時間を費やすのですが、その間に何度も何度もキャッチボールをします。アートパラを通じて出会ったアーティストとも、作品をどのように商品に落とし込んでいくかを一緒に考えていきますが、彼らとの対話はビジネスでありながら、友だち以上の関係性を築いているような、まさにアットホームな感覚でモノ作りを進めているんです。他でも活躍されているアーティストとは何ら変わらない、むしろそれ以上の作品や進行ができます。hell男さんの作品を見た時はとても衝撃的でしたね。1本のペンだけで描いたという点や線の集合体には、誰にも真似できない集中力で生み出される画力や強烈なインパクトがあります。素晴らしいアートです。1人のアーティストとして、とても尊敬します。
青木:今回コラボレーションした“UNEEK”というオープンエアー・スニーカーは2本のコードと1枚のソールで作られた独特のデザインで、KEENの中でも細部にこだわりを詰めた完璧な一足として象徴しています。その“UNEEK”に別のデザインを組み合わせるのは決して容易なことではなく、どうしても作品の全てを落とし込むことはできなくて、作品をトリミングしていくことが必要になります。今回はフットベッドに作品をフルプリントで施し、“UNEEK”の特徴的なアッパーのコードにはオリジナルのトライバル風の柄の一部を織り交ぜています。“UNEEK”としても今までにないデザインに仕上がっていて、履き回しやすいカラーリングになった自信作です。
ただ製作中、hell男さんがデザインを「いかようにでもいじってください」「もう何やっちゃってもいいです」なんておっしゃるんですよね。でも僕たちとしてはそうは思っていなくて、少しでも本来の作品の良さを壊すことなく落とし込むことが責務だと思っています。その結果、出来上がった商品を手にしたご本人やご家族の笑顔を見ると、やってよかったなって思いますね。
上野:私も製作の段階でhell男さんご本人が「僕の作品を商品化してもらうんだ」ってワクワクしながら話してくれたことを覚えています。完成された商品を見て、まさか紐の部分にも彼の作品が表現されるんだって驚きました。
青木:障がいのあるアーティストの作品を使用するにあたって、彼らに正当なロイヤリティーが支払われていないという現実があると聞いたことがあります。ビジネスにおいて、そうした冷たさがいまだにあると知って、信じられませんでした。でもアートパラとの取り組みでは、従来と同じ条件でロイヤリティーをお支払いしています。彼らに対して正当な雇用を生み出すということもこのアートパラ賛同の大きなポイントです。
上野:私もそうした障がいのあるアーティストが抱える“壁”という話はご本人やご家族から聞くことがあります。彼らの作品を適正な価格で評価されないことは少なくないようで、家族の方も「(作品を)もらっていただくだけでもありがたい」なんておっしゃるんです。でもそれって全く良くないと思うんです。
アートパラは障がいがあってもなくても、みんな平等に生きていこうという共生社会を掲げています。私たちはたまたま言語というコミュニケーションツールを使っていますけど、それが絵だとしたら、絵が描けない私はその点で障がいがあると言えることになるわけですよ。自分が思っていることや感情を絵で表現するって私にはなかなかできません。でもたとえば言語でのコミュニケーションが苦手であっても、彼らはアートによってこんな表現ができる、このすごい才能に私たちは元気づけられています。それほど彼らの作品にはすごいパワーがあるんだと思います。
上野:アートパラは今年で5年目になります。作品を通して、人々が出会うというつながりは、アートならではだと実感しています。特に障がいのあるアーティストの作品の場合、彼らの病気のことや生い立ち、これまでの苦しみなどを知り、作品への思いを理解することでより身近に感じられると思うんです。今回は街なかに展示するレプリカ550点に加え、約160点の原画が深川エリアの屋内外に飾られます。特に彼らが気持ちを込めて製作した原画は、迫力があり大変見応えがあります。ぜひ町を散歩しながら多くのアートに触れてほしいと思います。
青木:タイムスリップしたようなノスタルジックな街並みや歴史、おいしいグルメや素敵なお店を体感しながらアートも楽しめる、他には絶対ない一石何十鳥も味わえるイベントです。まずは足を運ぶことから始めてみてください。
日程: 2024年10月19日(土)~27日(日)
開催エリア: 門前仲町・清澄庭園・森下・豊洲
https://artpara-fukagawa.tokyo/
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