ストーリー画像-無関心ではいられない。いま消えていく、原生林たち。
ストーリー画像-無関心ではいられない。いま消えていく、原生林たち。

無関心ではいられない。いま消えていく、原生林たち。

今、世界の原生林がものすごい勢いで減少しています。

原生林とは、人による開発の手が入らず、生態系が乱されていない在来種の森林のこと。太古からの地球の営みが残る希少な森です。

1900年から2015年までの間に、地球上からそれまでの3分の1以上が失われ(※1)、1990-2020年の30年間だけでも、日本の国土面積の2.1倍にあたる8,100万haもの原生林かが失われました(※2)。

※1 世界で巨木が死んでいる、115年間で原生林の3分の1超が消失:ナショナル・ジオグラフィックス

※2 世界森林資源評価2020 林野庁

違法伐採や農地開拓のために、オランウータンが住む場所を失いつつあるボルネオ島・スマトロ島の熱帯雨林。大規模な農地開拓とそれに伴う森林火災によって減少している南米アマゾンの熱帯雨林。破壊は今も現在進行形で進んでいます。

同じことが温帯雨林の宝庫である北米大陸でも起きています。住宅建材や地下資源の採掘に加え、最近では他国のバイオマス発電に使うペレット材のための皆伐が始まっています。

地球温暖化の原因となるCO2を吸収し多様な動植物のすみかでもある原生林の消滅は、気候危機を加速化させ、その地域で生きてきた人々の暮らしも脅かします。原生林の危機は、私たちの生活と無縁ではありません。


世界最大の温帯雨林トンガス

アラスカ州南東部のアレクサンダー諸島に広がるトンガス国有林(※3)は、世界で最も希少な原生林の一つ。全長約800km、面積約675万ha(日本本土の面積の約1/6)の広大な森には年間2,800mmもの雨が降り注ぎ樹齢1,000年の木が根を張り、まるで古代の森の中 を歩いているような感覚に陥る、悠久の原生林です。

このエリアはきわめて豊かな生態系をもち、面積当たりの生き物の数は、熱帯のジャングルよりも多いと言われています。シトカ・オグロジカ、オオカミ、ブラウンベア、ヘラジカ、ネズミイルカ、ヘアアザラシ、ザトウクジラ、シャチ、ラッコなど400種以上の陸上・海洋野生生物にとって理想の環境なのです。総延長2万2,000kmあまりの河川を多くの鮭が遡上することから「サーモン·フォレスト」とも呼ばれ、北米の他地域では絶滅の危機にあるヒグマやハクトウワシも、ここでは安心して暮らしています。

この希少な生態系と豊富な雨が、生命に不可欠な栄養素を循環させる肥沃な土壌を生みました。その恩恵を何万年にも渡って受けてきた国有林の半分以上はベイトウヒ、ベイツガ、ベイスギ、アラスカヒノキ(スプルース)といった針葉樹。1,000年以上生きる巨木オールドグロウスもいたるところに育ち、森の生態系を守ってきました。

そして、この地に1万年以上前から定住するトリンギット族、ハイダ族、チムシアン族の人々は、今も32のコミュニティに約7万人が暮らしています。海、川で獲れる豊富な魚、野生動物に支えられて、自然への畏怖という伝統的な文化とともにある生活が、今もなお続いています。トンガスという名称もトリンギット族のひとつトンガス族に由来します。

※3 トンガス国有林ホームページ(英語)

トンガスの森は暮らしとともにあり、人々は寒さから家族を守る快適な家を建てるためにわずかばかり木を切り、トーテムポールを建て、人々が自分たちの住む家などのために、細々と続けられてきました。変わり始めたのは1950年代からです。

ここで、トンガスの現状を伝えるコリン・アリスマン監督による、映画『UNDERSTORY』の予告編をご覧ください。


映画『UNDERSTORY』予告編


森はどのように失われたのか

1953年。アメリカ政府が無制限な伐採を許可。これを受けて2つのパルプ工場が建設され、伐採された原木や生産された紙が主に日本へと輸出され始めます。第二次大戦敗戦後の日本の復興支援という目的もありましたが、事業が撤退する1990年代までの40年余りの間に日本への原木輸出などにより約40万 haの原生林が消失し工場排水による水域汚染も発生。地域の生活と環境に深刻な影響を与え続けました(※4)。

トンガスで伐採されたベイヒバは、スギやヒノキの代替として住宅や寺社仏閣の土台に、ベイツガは柱に、ベイスギはウッドデッキなどに使われてきました。さらにピアノ・ギターなど楽器の素材としてシトカスプルースも人気。こうしてトンガス原生林の4%しかないオールド・グロースの7割が伐採され消失したといいます。(※5)

一方、 日本では価格の安い輸入材の陰で国産材の需要が減少。このため山林経営が行き詰まって、戦後に植林した人工林の保全が難しくなり、山は荒れていきました。

※4 最後の温帯雨林再生の行方:ナショナル・ジオグラフィックス

※5 森林生態系に配慮した木材調達に関するNGO共同提言


私たちの行動が、森を守る。

2001年、政府の土地管理者や先住民部族の関係者が何年もかけて検討した結果、米国森林局はロードレスエリア=無道区域保全ルール(以下ロードレス・ルール)を採択しました。原生林や希少動物の保護を目的に、数百万エーカーの公有林で伐採のための道路建設を禁止。トンガスの原生林は皆伐や資源採掘などの新たな開発から守られることになりました。

一方で、伐採による商業利用を主張する人々が多いことも確かです。事実、2012年のブッシュ政権に続いて、2020年にはトランプ政権がトンガスへのロードレス・ルール適用の除外に動きました。これに対し、東南アラスカの部族連合が、NGOや企業などと共同で、トランプ大統領に計画の撤回を求める訴訟を起こしました。

2021年になって、バイデン政権はロードレス・ルールを元に戻すとともにトンガス国有林の保護を大幅に強化することを発表しました。人びとが行動に移したことで森が守られたのです。

大規模な木材販売は禁止となり、コミュニティ開発に2,500万ドルを助成し、先住民や小規模事業者がトーテムポールやカヌー、織物など、地域社会や文化的な用途のために原生林を限定的に販売することで、地域の小規模工場が操業を継続できるようにすると報道されています(※6)。

※6 Biden administration proposes sweeping protections for Alaska’s Tongass National Forest:ワシントンポスト(英語)


トンガスを守ることは気候危機の回避に有効

世界最大の温帯雨林トンガス国有林は、世界に現存する温帯雨林全体の3割近くを占める、貴重な自然の宝庫です。

自然保護団体「アラスカ・ウィルダネス・リーグ」(※7)によると、世界最大級の温帯林であるトンガス国有林は、1.5億トン以上の炭素を貯蔵し、年間1,000万トンの炭素を吸収するとも言われています。さらに、国有林の保護活動を展開する団体ウィルダネス·ソサエティ(The Wilderness Society)によると、米国内の国有林全体で吸収される二酸化炭素のうち、トンガスが占める割合は約8%と推定され(※8)、北米大陸に残された最後の「気候の聖域」とも呼ばれています。

※7 アラスカ・ウィルダネス・リーグ(英語)

※8 ウィルダネス·ソサエティ

気候危機に国境はありません。とくに、トンガス原生林伐採の恩恵を受けてきた日本に住む私たちは、その保護にも責任を負っていると言えるでしょう。現地のコミュニティやNGOは私有林からのFSC認証材(※9)利用を呼びかけています。私たちが木材を使うとき、その木はどこから来たのかを考える。地元の木やFSC認証材を使うことが、環境保護にも気候危機の回避にも役立つということを覚えておきましょう。

※9 FSC 認証材:環境、地域社会、経済等に考慮し、持続可能な形で適切に管理された森林から生産された木材などに与えられます。FSC JAPAN


全世界の売上げの1%をトンガス国有林保護活動に寄付。

グレイトフル·デッドのギタリストであり、20世紀を代表するアメリカのミュージシャンであるジェリー·ガルシアは、1980年代に温帯雨林を守るために声を上げた代表的な一人。彼のアート作品New York at Night とBanyan Treeをフィーチャーした<KEEN×GARCIAコレクション第3弾>は、ウィンタースライドシューズ『HOWSER SLIDE(ハウザースライド)』とのコラボレーションです。KEEN秋冬シーズンの定番コレクションHOWSERは、外にいても家にいるような快適性を実現するリラックスシューズ。室内シューズとしてはもちろん、近所への外出、ベランダやキャンプなどのリラックスシーンでも汎用性の高いスライドタイプです。売上げの1%は、国有林の保護活動を展開する団体ウィルダネス·ソサエティ(The Wilderness Society)に寄付され、アラスカ・トンガス国有林の保護活動に役立てられます。