BACK TO FIELD

世界を広げ、心が整う場所

野口 絵子環境活動家Noguchi Eko

builtforbeyond-targhee-article-11-icon-activity

八ヶ岳・白駒池から高見石へ続く、苔むした森。
キリマンジャロやヒマラヤの6,000m峰など、
世界の高峰を歩いてきた環境活動家・野口絵子さんにとって、
ここは何度でも帰ってきたくなる場所だ。
「小さい頃は山が怖くて、嫌いでした」
世界の山々を歩いた先で、絵子さんが見つけたもの。
それは、美しい景色だけではない。
世界を広げ、ときには心を整えてくれる、
そんな山の奥深さだった。

見えていなかった景色が見えてきた

父である登山家・野口健さんのもと、幼い頃から山を歩いてきた絵子さん。

「じつは、小さい頃は山があまり好きではありませんでした。怖いし、大変ですし、でも忙しい父と一緒に過ごすためには、父について行くしかない。泣きながら登っていました」

そんな絵子さんが山を好きになったきっかけは、中学生の頃に父から渡された一台のカメラだった。

「それまでは、ずっと前だけを見て歩いていました。でもカメラを持つようになってから、足元や周りを見るようになった。苔だったり、小さな草花だったり。歩いているだけでは気づかなかった景色が見えるようになり、山がどんどんおもしろくなっていきましたね」

苦手だった山は、少しずつ好きな場所へと変わっていった。

視座を変えた、高峰への挑戦

その後、絵子さんはアフリカ最高峰・キリマンジャロや、ヒマラヤの6,000m峰へ挑戦。数々の海外遠征を重ねながら、本格登山の魅力にのめり込んでいく。

「かつて山は挑戦する場所であり、嫌いなものを克服する場所でした。でも今は、好きだから登りたい。と思ってはいるものの、どこか自分が挑戦していない状況に『これでいいのかな』、『自分に甘えていないかな』と焦燥感を覚えてしまう」

だからこそ、絵子さんはより高く、より厳しい山へと向かう。そしてその先に待っているのは、極限の世界でしか見ることのできない景色だ。

2025年に挑戦したヒマラヤ・メラピーク(6,476m)での登頂を、絵子さんはこう振り返る。

「標高6,000m辺りは植物が生きられず、雪の白と空の青だけが存在する世界。木の匂いも土の匂いもしません。圧倒的な美しさと同時に、ここは人間が生きる場所ではないのだ、と本能的に感じましたね」

「夜中3時、山頂へラストアタックをしていると、月の光が凍った雪の斜面に反射して、目の前に一筋の光の道が現れました。まるで空を歩いているようで、なんとも神秘的な時間。そしてついにたどり着いた山頂からは、ヒマラヤ山脈が360度に広がる絶景! 今まで見た景色のなかで一番美しかったですね」

一方、極限の環境は、日常の当たり前のありがたさにも気づかせてくれた。

「ヒマラヤで1か月ほど生活すると、水がどれだけ貴重かを痛感します。シャワーは浴びられないし、飲み水も煮沸したお湯が基本です。でも日本に帰って蛇口をひねれば、簡単に水を得られます。これまで当たり前と思っていたことは、ありがたいことなのだと気付かされましたね」

さらにヒマラヤでの経験は、日本では実感しにくい自然環境の変化を目の当たりにする機会にもなった。

「近年、ヒマラヤでは氷河がどんどん溶けています。シェルパの方たちからも、昔はもっと手前まで氷河があったんだよ、とよく聞きます」
2023年には氷河湖の決壊によって、何度も訪れたエベレスト街道のターメ村が土砂に飲み込まれた。

「本当にショックでした。日本にいると、温暖化といっても『暑くなったな』程度の実感しかわかないかもしれません。でもここでは、自然環境の変化だけでなく、それによって人々の暮らしまで失われてしまう。そんな残酷な現実を、まざまざと見せつけられました」

この経験を機に、現在は大学で環境問題や農業を通しての地域とのコミュニティを学びながら、学生を自然の現場へ連れ出すフィールドプログラムにも取り組んでいる。

「教室で話を聞くだけでは、自然や環境問題を自分ごととして捉えることは難しい。実際に現場へ足を運び、自分の目で見て、感じる。その経験が、その人の価値観を育てていくのではないかと思っています」

何度でも帰りたくなる山、八ヶ岳

絵子さんが、何度も足を運びたくなる日本の山。それが八ヶ岳だ。

「人生で初めて登った山も、海外遠征前のトレーニングで通う山も八ヶ岳。南北に山々が連なっていて、赤岳のような岩稜帯から、白駒池周辺の苔むした森まで、一つの山域でさまざまな景色を楽しめます」

今回歩いたのは、北八ヶ岳の白駒池から高見石へと続くルート。起伏の穏やかなトレイルが続き、往復2時間弱と初心者も気軽に歩ける。

「最初は、背丈の高い木々に囲まれた森の中を歩きます。私は苔が大好きなのですが、八ヶ岳には約500種類の苔が生息しているといわれていて。苔に覆われた岩や、美しいブナ林に木漏れ日が差し込む景色は、まるでジブリの世界のようです。

さらに苔や花の匂い、鳥のさえずり、風に木がそよぐ音など、視覚以外の感覚を通して感じる自然も魅力的ですね」

森を抜けると、ごつごつとした大きな岩がいくつも重なりあった高見石が現れる。

「さっきまでとは打って変わり、高見石を登ると一気に360度景色が開けます。白駒池や八ヶ岳の峰々、佐久平の町並みまで見渡せて本当に気持ちいい。森の中で五感を研ぎ澄ませながら歩く時間と、目の前に大パノラマが広がる開放感。そのギャップもまた最高です」

「街にも自然を感じられる場所はありますが、人の話し声や車の音など、どうしても人工的な音が耳に入ってくる。でもここにくると、人がつくった音がほとんどありません。自然の音・匂いをただ感じながら歩いていると、思考が少しずつ止まって、頭の中がクリアになっていく感覚がありますね」

四季、山小屋、信仰。
日本の山は、おもしろい

海外の山には、誰もが憧れるスケールの大きな景色が広がる。一方で、日本の山には、国内だからこそ何度も通い、その変化を感じ取れるおもしろさがある。

「海外の山は、一度登るだけでも時間やお金がかかるので、気軽に足を運ぶのは難しい。でも日本の山は、季節を変えて訪れることができます。春夏秋冬でまったく違う表情を見せてくれるので、『次は紅葉の季節に』『雪が積もったら』と、その変化を楽しみにまた歩きたくなります」

また、山小屋を訪れることも、日本の山歩きならではの楽しみだという。

「山小屋では、初めて会った人とも自然と会話が生まれますし、『また来たね』『おかえり』と声をかけてもらえることもあります。日本の小屋の、そうした人とのつながりやアットホームな雰囲気が好きです。

また、今回訪れた高見石小屋の揚げパンのように、小屋ごとに看板メニューがあったり、オリジナルグッズが販売されていたりと、個性も豊か。私は山を登った記念に、ステッカーを集めています」

さらに絵子さんは、日本の山に息づく歴史や文化にも惹かれるという。

「山には神社やお地蔵さんがあって、昔から信仰の対象として大切にされてきた歴史があります。先日も赤岳の山開きに参加したのですが、山頂で宮司さんがお祈りをされていて、『登らせてもらう』という感覚が今も残っている。その文化は、日本らしい魅力の一つだと思います」

自然だけではなく、人や文化、歴史まで含めて楽しめる。それこそが、世界の山々を歩いてきた絵子さんが改めて感じる、日本の山の魅力なのかもしれない。

山を楽しむために、
まずは靴にこだわりたい

「『登山を始めたいけど、何を買えばいいですか?』と聞かれることがよくありますが、私は必ず登山靴の話からします。

山ではスニーカーで登っている方も見かけますが、砂が入って痛そうだったり、新品をそのまま履いてきて靴擦れしていたり……。久しぶりに出した登山靴のソールが剥がれてしまっている方もいますね」

ウェアはレイヤリングで調整できる。しかし、シューズだけは途中で履き替えることができない。だからこそ、自分が歩く山に合わせたシューズ選びが、安全に山を楽しむための第一歩となる。

「私がとくに重視するのは、フィット感。長時間歩いても疲れないか、違和感がないか。私は必ずお店で履いてみて、少し歩いてから選ぶようにしています。購入したら、近所の公園でもいいので、一度履き慣らしてから山へ行くだけで全然違いますね」

今回着用した『TARGHEE Ⅳ MID WP(ターギー フォー ミッド ウォータープルーフ)』も、そのフィット感のよさが印象的だったという。

「履いた瞬間に『軽い、歩きやすい』と感じました。アッパーが柔らかいので足にすぐなじみますし、踏み込んだときも足の動きを妨げない。つま先部分の足幅にもゆとりがあるので足指をしっかり使って踏ん張ることができ、高見石のように不安定な岩場でも安心して歩けます。

それでいて、かかとはヒールロック構造でしっかり固定されるので、靴の中で足がズレる感覚もありませんでした。

登山靴は重いほど初心者にはオーバースペックなことも多く、どうしても疲れやすくなります。その点、このシューズは軽さと安定感のバランスがよく、初めて登山靴を履く方でも安心して歩ける一足だと思いました」

経験を積むほど、「初心」に立ち返る

経験を積むほど、自信は生まれる。しかし、その自信が、ときに判断を鈍らせることもあるという。

「昨年、6,000m峰のロブチェ・ピークへ登りましたが、雪崩のリスクが高い時期でした。シェルパの方たちと相談して登る判断をしましたが、後から考えると、そこまでリスクを負う必要があったのかなと。

山は逃げない。また条件の良い日に登ればいい。それなのに、これまで登れてきたという経験が、少し過信につながっていたのかもしれません。一緒に登る仲間の命まで本当に考えられていたのか。今でも反省することがあります」

その経験以来、絵子さんは、どんな山でも基本を疎かにしないよう心がけている。

「天候を確認する。装備を見直す。リスクを想定する。そうした積み重ねが、安全につながります。山は楽しい場所。だからこそ、一番大切なのは安全に帰ってくることだと思っています」

山は、一人ひとり違っていい

最後に、これから山へ向かう人たちへメッセージをお願いした。

「山には、本当にいろいろな楽しみ方があります。ピークハントが目的の人もいれば、花や撮影を楽しむ人、長く縦走する人、小屋でのんびり過ごす人もいる。

だから、ぜひいろいろな山へ行ってみてほしいです。日本は本当に豊かな山に恵まれていて、トレイルも景色も一つとして同じものはありません。歩いているうちに、自分はどんな山が好きなのか、どんな楽しみ方が合っているのかも、きっと見えてくると思います」

野口 絵子Noguchi Eko

登山家の父・野口健とともに9歳で八ヶ岳の雪山デビューを果たし、幼少期より国内外の山々を歩く。マレーシア最高峰キナバル山、アフリカ最高峰キリマンジャロをはじめ、ヒマラヤの6,000m峰にも挑戦し、メラピーク(6,476m)の登頂にも成功。現在は大学で環境教育を学びながら、NPO法人ピーク・エイド理事として環境保全活動に携わるほか、講演や執筆、フィールドプログラムの企画などを通して自然の魅力を発信している。2026年、「第58回2026ミス日本グランプリ」とミス日本「海の日」を受賞。

eko.noguchi

TARGHEE IV MID WP

ターギー フォー ミッド ウォータープルーフ
カラー:PLAZA TAUPE/HUCKLEBERRY
重量:495g(24㎝片足)

軽快さと安心感で、
山歩きの不安を自信に変える

つま先にゆとりのあるKEEN伝統の幅広い木型を受け継ぎ、接着剤を使わずに一体成型するダイレクトアタッチ製法を採用。アッパーとソールが剥がれにくく、耐久性に優れた構造へと進化した。さらに、ヒールキャプチャー構造がかかとをしっかりホールドし、シューレースと連動して足首にフィット。高い防水透湿性と優れたグリップ力を備え、苔むした森の木道から高見石へと続く岩場まで、変化に富んだトレイルでも安定した歩行をサポート。登山を始めたばかりの人から本格的な山歩きを楽しむ人まで、幅広いフィールドで安心して歩き続けられる一足だ。

詳しく見る