モデルとして活動する傍ら、
YouTubeやSNSで山の魅力を発信する山下舞弓さん。
登山歴14年の経験から、これから始める人にも、
すでに楽しんでいる人にも役立つ、
山との付き合い方や道具選びのTipsを教えてもらった。
ロープウェイを味方につけて、
無理なくアルプスの絶景へ
山下さんが登山を始めたのは2012年。当時はマラソンに夢中で、夏場のトレーニング場所を探していたところ、友人から「標高の高い山なら涼しいよ」と誘われたことがきっかけだった。
最初に登ったのは、八ヶ岳の赤岳。いきなり標高2,899mの山、しかも小屋泊での挑戦だったという。
「辛いところもあったけれど、それ以上にワクワクする気持ちが大きかったです。山の稜線から朝日を見たときに、『こんな景色が見られるんだ』って。そこから山に一気にハマりました」
以来、山へ通い続け、現在はYouTubeやSNSでもその魅力を発信している。そんな山下さんが、これから山を始める人にもおすすめしたい場所のひとつが、今回訪れた中央アルプスの木曽駒ヶ岳だ。
最大の魅力は、ロープウェイを使って標高2,612mの千畳敷駅まで一気にアクセスできること。
「暑い時期に低山の樹林帯を何時間も歩くのは、初心者には結構大変。でも木曽駒ヶ岳なら、ロープウェイを降りた瞬間から千畳敷カールの絶景が広がっています。天気がよければ南アルプスや富士山が見えることもありますよ」
もちろん、高山である以上、装備や体力づくり、天候への注意は欠かせない。一方で、体力や経験に合わせてゴールを選べるのも木曽駒ヶ岳の魅力だという。
「どこにいても絶景が味わえるので、木曽駒ヶ岳の山頂を目指しても、体力に合わせて途中の宝剱山荘や中岳で引き返してもいい。去年は小学5年生の姪っ子と登りましたし、山に登らない両親を連れてきたときは、千畳敷カールを歩くだけでも楽しんでくれました」
登山=自分の足だけで麓から山頂まで登るもの、と考えなくてもいい。まずは無理なく、自分が楽しめる場所から。ロープウェイは、まだ知らない山の世界へ連れていってくれる心強い選択肢なのだ。
山を安全に歩くために、
覚えておきたい4つのこと
山を安全に、無理なく歩くために、出発前から歩行中まで、意識しておきたいことがある。
1つ目は、小銭を何枚か用意しておくこと。
「初めての人はもちろん、何度も登っている人でも意外と忘れがちなのが、山のトイレの使用料。私たちが山で綺麗に気持ちよくトイレを使うための、大切なお手入れ代(維持費)です。一回の使用料はだいたい100〜200円ほど。料金箱へ入れて支払うので、小銭を崩して多めに持って行っておくと安心です。
山のトイレを維持するには莫大なコストと労力がかかるので、感謝の気持ちとともに利用したいですね。もしトイレが設置されていないエリアを登る場合は、携帯用トイレを持参することも忘れずに」
2つめは、登山届の提出を忘れないこと。
「登山口に登山届を提出するポストが設置されていたり、今ではWEB上でも事前に提出したりすることも可能です。万が一、山で何かあったときの大切な情報になりますし、提出することで、自分たちの行動計画やルート、装備を改めて確認する機会にもなります」
3つめは、歩き出す前にシューズをしっかり、正しく履くこと。
「足に合った靴でも、きちんと履けていないと靴の中で足がずれてしまい、靴擦れや痛みの原因になることも。歩き出す前に足にしっかりフィットさせるため、座った状態でかかとをトントンして、靴とかかとの隙間をなくしてから靴ひもを結びます。
ちなみに、ミッドカットのアッパー上部にある金具のフックに靴ひもを引っ掛ける前に、ひもをクロスさせて足首にフィットさせることもお忘れなく。初心者の方のなかには、そのまま上にひもを引き上げて、フックに引っ掛けてから結んでしまう方もいますが、それではフィット感が損なわれてしまいます」
4つめは、歩き始めたら、喉が渇く前に水分補給をすること。
「汗をかき続ける登山では、喉が渇いたときにはすでに軽い脱水状態と言われていて、こまめに水分補給することが大切。そのうえで私は水だけではなく、ハイポトニック飲料を持っていくようにしています。水分をすばやく吸収しやすく、運動中の水分補給に適しているのでおすすめです。私はこれを取り入れるようになってから、だいぶバテにくくなったと実感しています」
また山を歩く際に疲れを感じにくくするために、トレッキングポールを活用するのもひとつの方法だ。
「私はトレッキングポールを使わないですが、バランスを取りやすくなりますし、足腰への負担を和らげてくれるので、必要に応じてうまく取り入れるのもいいと思います」
荷物は最小限、
装備は山に合わせて使い分ける
初めの山が八ヶ岳・赤岳。しかも小屋泊だったことから、山下さんが最初に揃えたのは、しっかりとしたフレーム入りのバックパックをはじめとする本格的な装備だった。
「その後もしばらく同じもので山を登っていました。でも実際は、日帰りやそれほどハードではない山へ行くことが多く、装備によって疲れてしまうこともありました」
そこで、約1kgあったバックパックを、300gほどの軽量なものに買い換え。最初の頃は不安だからと、あれもこれも持っていっていた装備も、山行ごとに厳選するようになった。
「経験を重ねると、『この山ならこれは必要ない』『ここには山小屋があるから、水はこの量ででいい』と少しずつ判断できるようになるんです。いつも登りでバテがちでしたが、荷物が軽くなったことで、もう少し先まで歩ける!と思えるようになりました」
行く山、季節、歩く時間は毎回違う。だから、一つの装備ですべての山行をまかなおうとするのではなく、行く山に応じて本当に必要なものは何かを考えることが大切だ。
とはいえ、軽量化を優先して、安全性や快適性を維持するための装備まで削るわけではない。山は天候が変わりやすいので、レインウェア、重ね着できるレイヤーウェアや防寒具、エマージェンシーキットなどの必携品から、紫外線による疲労を防ぐための帽子や日焼け止めも欠かせない。水分は必要分準備して、たとえばナッツや塩分など、栄養価の高い行動食もあるといい。
ちなみに必携品ではないものの、持て行っておくと便利だと山下さんが推すのがウィンドシェルだ。
「山で強い風に晒されると、体が冷えてしまいます。ただレインウェアだと、動いているうちに暑くなって汗をかいてしまうこともあるので、私は薄手のウィンドシェルを重宝しています。薄くて軽く、パッと羽織りやすいので、バックパックの取り出しやすいところにいつも入れています」
最近、出没が多くなっているクマの対策として熊鈴も携行しているが、山下さんは常に鳴らして歩くわけではないという。
「まず、登る山域の熊の出没情報は必ず確認し、鳴らす必要がある場所でのみ熊鈴を使用しています。人が多い登山道でずっと鳴らしていると、周りの人が気になることもあると思うので。出発前に、自治体のサイトに掲載されている情報に目を通しておくといいですよ」
ミッド? ロー? シューズは
“どこをどう歩くか”で選ぼう
これまで数多くの登山靴を試してきた山下さん。シューズ選びで重視するのは、自分の足にきちんと合い、長時間歩いても疲れにくいことだ。
「私は幅の狭い靴だと、長時間歩いたときに足が痛くなりやすいんです。昔、KEENのTARGHEE Ⅱ WP(ターギーツー ウォータープルーフ)を初めて履いたときはつま先にゆとりがあって、すごく履きやすかった。デザインも山になじむアースカラーが多くて好きなんです」
山下さん自身は、足首を動かしやすく軽快に歩けるローカット派。とはいえ、初心者にはまずはミッドカットをすすめたいという。
「初めの頃は、岩場や凸凹したトレイルのどこに足を置けば安定するのか、まだわからないことも多いと思うんです。そのため山道に慣れていない人は、足首を支えてくれるミッドカットが安心。足首をひねりも軽減できます。荷物が重いとき、長い山行を歩く際にも向いています。逆に、整備されたトレイルやアップダウンの少ない山を軽い荷物で歩くなら、ローカットの軽快さも魅力です」
岩場が多い木曽駒ヶ岳なら、初心者にはミッドカットが選択肢になる。山下さんが履いた「TARGHEE IV MID WP(ターギーフォー ミッド ウォータープルーフ)」は、普段ミッドカットを敬遠しがちな山下さんでも履きやすかったそう。
「私は足首を固定される感じが苦手で、ミッドカットだとくるぶしが痛くなるんです。でもTARGHEE IVは足首まわりがやわらかくて、窮屈さを感じにくい。それでいて、きちんと足首を支えてくれる安心感があります」
履き口の高さとともに、シューズ選びで注目したいのがソールの硬さ。硬さを保ちながらもソフトなソールは、軽量で、足裏が曲がりやすく足捌きもスムーズ。日帰りや低山ハイクなど、軽快に歩く場合に向いている。
一方、硬めのソールは靴底が変形しにくく、岩場や不安定な場所、重い荷物を背負う山行などで安定感を得やすい。
山下さんが好むのは、比較的しなやかで、足裏から地面の状態を感じ取れるソールだ。
「地面の凹凸が伝わってきて、自分の足で地面を掴める感覚がある方が、私は歩きやすいんです。TARGHEE IVはタフなソールなのに硬すぎず、それでいて程よいクッション性がある。つま先にゆとりがあるから指をしっかり動かせるので、地面を掴むような感覚で歩きやすいですね」
「どんな山を、どんな荷物で、どれだけ歩くのか」を考えること。自分の足の特徴や経験値も含めて選ぶことが、自分に合った一足を見つける近道だ。
山がもっと楽しくなる
「自分だけのご褒美」をつくろう
山下さんといえば、YouTubeやSNSでお馴染みの「山ごはん」。焼き鳥丼やピザ、カレー、時にはケーキまで。普段家で食べている料理を山の上で再現するのが楽しいのだという。
「疲れたあとに、自分が歩いてきた道や景色を眺めながら食べるのが最高。何を食べても、何なら地上で食べるより美味しく感じるのは不思議ですね。最初はカップラーメンを食べて、『こんなにおいしいんだ!』って感動して。そこから、もっといろいろ作ってみたいと思うようになり、山を歩くうえでの楽しみに変わりました」
今回作ってくれたのは、生ハムのトマトソースパスタ。スーパーやコンビニでも手に入るトマトソースをベースに、ニンニクと塩でシンプルに味付け。さらにフレッシュトマトを加えることで爽やかな酸味が生まれ、最後にオリーブと生ハムを散らせば、山の上とは思えない本格的なひと皿に仕上がる。
山ごはんを作るための道具選びにも、山下さんらしいこだわりが。
「脚まですっぽり収まる折りたたみミニテーブルや、スタッキングできる木の器など、収納・持ち運びしやすい道具を重宝しています。CB缶はキャップを底部に取り付けられるなど気が利いているうえ、本体にデザインされた山の絵も素敵。そんなふうに、山でも気分よく使えて、負担にならないものを選んでいます」
加えて、自然への配慮も忘れない。バーナーを使用できる場所か事前に確認し、食材はジップロックなどにまとめて、意図せずゴミを落とすことも防ぐ。落ちているゴミを見つけたら拾うことも心がけているそうだ。
「自然環境への影響をできるだけ少なくしてアウトドアを楽しむ、KEENも賛同している『Leave No Trace』の考え方には、私もすごく共感しています。山で楽しませてもらっているからこそ、ダメージを残さず、来た時よりも綺麗な状態で帰ることを意識しています」
山頂を目指すことだけが、登山の目的ではない。山下さんにとって山ごはんがそうであるように、自分なりの楽しみを見つけることも、山と長く付き合っていくためのひとつの方法だ。
「また行きたい」と思えるくらいが、
ちょうどいい
山を始めると、「次はもっと高い山へ」「せっかくだから山頂まで」と、つい先を目指したくなる。でも、山下さんは大きな目標をあえて決めない。
「目標を決めると、それを叶えることに一生懸命になってしまうから。私は、この山に行けたら次はここ、というくらいでいいんです。必ずステップアップしなくてもいいと思っています」
山頂に立つことも、百名山を制覇することも、登山の楽しみ方のひとつ。でも、それだけが正解ではない。
「ちょっと嫌だなとか、体調が悪いなと思ったら引き返していい。山頂に登ることを目的にして無理をするより、自分が楽しめるところで楽しむのが一番だと思います。山はずっとあるし、逃げないですから」
大切なのは、下山したときに「また山へ行きたい」と思えること。無理をせず、自分のペースで楽しむことが、山と長く付き合っていくいちばんの秘訣なのだ。
山下 舞弓Yamashita Mayumi
モデル・YouTuber。2012年、八ヶ岳・赤岳への登山をきっかけに山の魅力に目覚める。現在は長野県を拠点に、日本アルプスをはじめ国内各地の山を歩き、YouTubeチャンネル「オトナ女子の山登り」やSNSで山旅、登山道具、山ごはんなどを発信。自身の経験をもとにした実践的な情報が支持を集めている。著書に『わたしの山登りアイデア帳』(山と溪谷社)。
TARGHEE IV MID WP
重量:495g(24cm片足)
初めての本格登山にも。
軽快さと安定感をバランスよく
接着剤を使わずアッパーとソールを一体化する「KEEN.FUSION」を採用し、高い耐久性を実現した『TARGHEE IV MID WP(ターギー フォー ミッド ウォータープルーフ)』は、LWG認証のヌバックレザー素材。KEEN独自の防水透湿素材「KEEN.DRY」、クッション性に優れた「KEEN.LUFTCELL」PU素材ミッドソール、耐摩耗性とグリップ力を備えた「KEEN.RUGGED」アウトソールなど、山歩きに求められる機能をバランスよく搭載する。つま先にゆとりを持たせた設計に加え、足首をサポートするミッドカットながら履き口はやわらかく、窮屈さを感じにくいのも特徴。まだ不整地での歩行に慣れていない初心者の足元を支えつつ、日帰りハイクから岩場を含むトレイルまで幅広く対応する一足だ。