環境について考える6月に
2025年6月5日は「世界環境デー」。
環境保全への意識を高める日として国連が定めた国際的な記念日です。
そして同月、KEEN JAPANでは、環境保全に関する知識を高めることを目的とした社内勉強会を開催。外部講師をお招きし、社員及び販売店関係者を対象に講義を行なっていただきました。

講師は、PFASに関する日本の第一人者として、長年にわたりPFAS汚染の問題に深く取り組んでおられる京都府立大学教授の原田浩二先生。「環境衛生学」を専門とする原田先生は、2002年に京都大学でPFAS汚染問題に取り組み始めて以来、国内外のPFAS研究の最前線で活躍されています。
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『A Little Story About Forever』という作品
この短編映画は、父マックスと息子キップの視点から「永遠とは何か」を描く作品。
作品の中では、“Forever(永遠)を脅かす存在” のひとつとして
Forever Chemicals(PFAS) にも触れています。
私たちがちょうど PFAS の学びを深めていたタイミングで
グローバルから公開されたこの作品には、こんなメッセージが込められています。
“A little action, a little person,
and a little army of goodness can go a really, really, really long way.”
「小さな行動が、大きな未来をつくる。」
この言葉は、PFAS勉強会での学びとも重なるものでした。
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▶︎PFASとは何か?
PFASとは、「有機フッ素化合物」と呼ばれる物質のグループです。
そもそも有機物とは、炭素や水素を含む物質のことで、植物や動物など自然由来のものに多く見られます。砂糖やアルコール、紙、プラスチックなどがそれに該当します。一方、無機物は炭素を含まないものを指し、塩、水、ガラス、金属などがあります。
そして、フッ素にも有機物のものと無機物のものがあります。例えば、むし歯予防薬などで使われているフッ素は無機物のフッ素で、安全に使われています。一方、有機フッ素化合物は、防水スプレーなどに使われています。特に、“ハイパワー”や“油汚れを弾く”と謳っているものは、PFASが使われているものがほとんどです。
ここで、PFASについて少し整理してみましょう。
PFASは、日本語的に簡単に言うと「たくさんのフッ素を含む有機化合物」ということ。有機フッ素化合物の中でも特にフッ素が多いものをまとめてPFASと呼んでいます。
そんなPFASは、熱や光に強くなかなか壊れないという特性を持ち、環境上に長く残留することから、「永遠の化学物質」とも呼ばれ、問題視されています。
その中で我々が使用してきたPFASが少なくとも4,700種類以上あると言われていますが、その代表的なものが「PFOS(ピーフォス)」と「PFOA(ピーフォア)」という2つの物質です。
PFASは1940年代、主に防水や撥水などを追求して人工的に開発されてきました。
しかし、2000年5月、PFOSとPFOAを開発した企業が「2002年までに、これらの物質の製造・使用を自主的に廃止する」と発表しました。理由は、この2つの物質が環境中で分解せず、生物にも蓄積しやすいことが示されたためです。2000年の調査では、北極や南極など人が生活しない環境でも、空気や水を伝わって野生生物の体内へ広がっていることがわかりました。
そして、これまでに、PFOSとPFOAが各地の地下水などを汚染していることも明らかになり、現在でも問題になっています。とはいえ、それ以外の多くのPFASは、今もそのまま使用されています。過去の汚染が今でもそのまま残っているうえに、今この瞬間もPFASの汚染が広がっているのです。
▶︎防水・撥水について
「物が濡れる」とは、素材の表面に水が広がるかどうかで決まります。水が広がるというのは、素材の表面と水が馴染むかどうかということ。水が馴染みやすい素材では、水分が横に広がっていきます。
一方、PFASは他のものと馴染みにくい特性があるため、素材の表面に使用することで水が馴染みにくくなり、撥水性を発揮します。こうした特性から、PFASはこれまでレインウェアやシューズなどに広く使われてきました。
▶︎健康への影響について
PFASについては、健康へのリスクも確認されています。特にPFOSやPFOAは、体内に入ると腸から吸収され、血液や肝臓に溜まりやすいことがわかっています。これにより、肝障害や脂質の代謝への影響、免疫機能の低下などが生じる可能性があるほか、妊婦の体から胎児にも入ってしまうことで、子どもの発育への影響も指摘されています。これらは動物実験の研究だけでなく、各地で行われた住民の健康調査の結果からも、リスクがあると判断されてきました。
▶︎規制状況について
日本が批准している条約のひとつに、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」があります。これは、人の健康と環境を守るため、残留性有機汚染物質(POPs)の製造、使用、排出を国際的に規制するものです。この中で、PFOSやPFOAについて「新たに製造しない(廃絶する)」ことが決定されています。
日本では、2020年に水道水や地下水に含まれるPFASについて、暫定的な目標値が制定されました。ですが、飲料水以外の日用品に含まれるPFASについては、いまのところ明確な規制はありません。
一方、米国のいくつかの州では、生活用品へのPFASの使用を規制する動きがはじまっています。これはPFOS、PFOAといった代表的なものだけでなく、そのほかのPFASも対象としています。PFASは、環境を長期的に汚染するという性質が問題とされているからです。
最近では、行政による規制に先立ち、企業によるPFASフリーの製品開発を進める動きがこの10年で進んできました。衣料品や家具、アウトドア用品などで使われてきたPFASを他の素材に置き換え、PFASを使わずに必要な性能を保つ取り組みが進んでいます。
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▶︎まとめ
・PFOS、PFOAは規制されてから20年以上も土壌や地下水に残留している
・PFAS全体は産業界から消費者製品まで幅広く使用されている
・PFOS、PFOA以外のPFASも、規制の対象になりはじめている
・欧米でPFASに対する規制は徐々に進展しているが、関連する企業の自発的なPFASフリーの取り組みは重要
▶︎質疑応答
Q:シューズの手入れとしてお客様に防水スプレーを勧める場合、フッ素が使われている防水スプレーについてはPFASが含まれているという認識で間違いないですか?
A:防水スプレーは、主に「アクリル樹脂系」「シリコン系」「フッ素樹脂系」の3つがあります。成分表記に「フッ素コート」や「フルオロコート」というような文言が入っているものは、間違いなくPFASが使用されています。特に油汚れに強いと謳っているものは、PFASが含まれている可能性が高いです。
Q:PFASは4,700種以上あると言われていますが、世界的に規制されているのは2種類だけで、他は使いたい放題なのでしょうか?
A:まず、国際条約で規制として進んだのがPFOSとPFOAの2種類で、その他に最近規制されたものが約10種類あります。また、PFOSとPFOAの関連物質グループとしても、数十種類規制されました。しかし、数千あるうちの100にも満たないものだけが規制されているというのが現状です。そんな中でも、フランスや米国のいくつかの州では、生活用品へはすべてのPFASを使用しないようにするという法律が成立しています。
▶︎感想
今回講義へ参加して、改めてPFASが与える影響の大きさとKEENのPFASフリーへの取り組みの重要性を認識しました。PFASが私たちの身近な製品に広く使われ、「永遠の化学物質」として環境や健康に長期的な影響を与え続けていることに改めて驚きました。特に、規制されているPFOSやPFOA以外の多くのPFASが今も使われ続けている現状を知り、問題の根深さを痛感しました。
KEENとしてPFASフリーを達成していることは、この講義で得た知識と照らし合わせても、改めて非常に価値のある取り組みだと感じています。今後もPFASに関する情報を積極的に学び、お客様に安全で持続可能な製品を提供できるよう、努力を続けていきたいです。
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