買い付けのためにヨーロッパ各地を訪れ、
京都で〈form 歩く鳥〉を営む八尋 鶉さん。
旅の目的は、ものを探すことだけではありません。
街を巡り、その土地の日常に触れ、
人々の営みや文化の背景を知ることも、旅の大切な意味です。
そうして得た経験が枝葉のように積み重なり、
一つひとつのものに宿る物語を捉える視点を育んできました。
八尋さんにとって歩くことは、旅の手段であると同時に、
自分が大切にしている価値観を確かめる時間です。
歩くことで見えてくる景色と、
長く使われる道具に共通する価値について、お話を伺いました。
歩く速度だから見える、
その土地の日常
八尋さんにとって旅は、仕事でありながら日常の延長にある営みです。ヨーロッパへ向かう主な目的は買い付けですが、知らない場所を訪れ、人やものと出会う時間には、普段の暮らしとは異なる刺激があります。
「旅は仕事の延長なんですけど、知らない場所へ行き、知らない人やものに出会える。日常の延長にありながら、非日常でもある。その感覚がすごく好きなんです」
その土地を知るため、旅先ではできる限り自分の足で巡るのが八尋さんのスタイルです。長距離の移動には電車や車を使うものの、街に着いてからは同じ道をなるべく通らず、目的地へ向かう際にもあえて別のルートを選びます。
「歩くスピードだからこそ見えるものがあります。車では通り過ぎてしまう街の空気や、人の暮らし、犬の散歩の仕方、みんなの服装。そういう何気ない日常が自然と目に入ってきます」
目を向けるのは、観光名所だけではありません。リードをつけずに犬を散歩させる様子や、道行く人の服装、店先や住宅の佇まい。その土地に暮らす人々の日常を眺めていると、街の文化や価値観まで浮かび上がってきます。
旅先を歩くことは、土地の表情を身体で読み取ること。歩く速度だからこそ拾える小さな気づきが、八尋さんの旅を形づくっているのです。
ものは、背景とともに見えてくる
街を巡るなかで得た感覚は、そのままバイイングに生かされています。なぜなら、ヴィンテージにもクラフトにも、それが生まれた土地の営みや文化、時代の背景が刻まれているから。
「その土地の営みや文化があって、それがものに現れているんです。さらにヴィンテージなら、そこに時代や歴史が重なっています。背景を知らないまま買うのと、街を歩いて文化を感じたあとに見るのとでは、ものの見え方がまったく違います」
乗り物で目的地へ向かい、店で商品を見るだけでは、その奥行きまで十分には感じ取れません。街の建築や人々の暮らしに触れたうえで出会うからこそ、一つの器や道具が生まれた背景まで立体的に見えてくるのです。
〈form 歩く鳥〉で扱う品々にも、共通する選定基準があります。作家の知名度ではなく、その人が何を考え、どのような目的から形を生み出したのか。何より大切にしているのは、そこに明確な意思を感じられるかどうかです。
「どういう目的で作られたのかが伝わってくるものに惹かれます。作家の名前がわからなくても、“こういうことをしたかったんだろうな”と感じられるものがありますし、あえてふざけて作ったものでも、その理由が見えるものが好きです」
北欧の品々が多くなったのも、初めから地域を限定していたからではありません。作り手の意思や、ものが生まれた背景をたどっていくうちに、自然と集まってきたのだそうです。
旅先で得た気づきをたどり、その中心にある作り手の思想や土地の文化を見つめる。八尋さんにとってバイイングは、単にものを選ぶのではなく、その背景まで持ち帰る営みです。
時間を重ねることで、
道具は個性を持つ
八尋さんが経年変化に惹かれるのは、使い手の時間が新たな物語として刻まれていくからです。ものは作られた時点で完成するのではなく、誰かの手に渡り、使われるなかで少しずつ固有の表情を帯びていきます。
「メーカーは一つの用途を想定して作りますが、そのあと誰の手に渡るかで使い方は変わります。同じものでも、それぞれ違う時間を重ねて、違う表情になっていく。その過程が面白いんです」
同じ器や道具であっても、使う人や環境によって傷の入り方や色合いは異なるものです。その違いが一つひとつの個性となり、ものに固有の物語を宿します。
長く残る道具に共通するのは、丈夫さだけではありません。作り手の目的が明確で、それに応える設計がなされていることも欠かせない条件だと言います。
「作り手の目的と設計がはっきりしているものは、使う側と相性が合ったときにすごく使いやすいんです。その意思が受け取る人にも伝わって、また次の物語が紡がれていく。だから長く使われ、受け継がれていくんだと思います」
作り手の意思が幹となり、使い手それぞれの時間が枝葉となって広がっていく。長く愛されるものの中心には、揺らぐことのない芯が通っています。
旅をするたび、
自分の幹が見えてくる
旅を重ねることで磨かれるのは、ものを見る目だけではありません。異なる土地や文化に触れるたび、自分が何を大切にしているのかも、少しずつ明らかになっていく。
八尋さんは、その感覚を一本の木に例えます。
「自分がやっていることには、目的となる幹があると思っています。旅をすると、そこに人やもの、街、建築、文化といった枝葉が増えていく。枝葉が広がることで、逆に自分の幹が何なのかも見えてくるんです」
旅先で得る経験は、単に知識を増やすだけのものではありません。これまで考えてきたことを見直し、自分が進む方向を確かめる機会にもなるのです。
歩くこともまた、同じ役割を果たします。一定の速度で身体を動かしながら街を眺めるうちに、頭の中にある考えが整理され、日頃抱いている思いや判断も確かめ直せるのだそうです。
「常に、お店を何のためにやっているのか、どう見せるべきなのかを考えています。旅をすると、それが本当にこれでいいのかを確認できて、さらに明確になっていくんです」
身体を動かしながら目の前の景色をゆっくり眺めるうち、考えにも次第に輪郭が生まれます。旅先で増える枝葉は、八尋さん自身の幹をより確かなものにしているのでしょう。
海外を歩くことで、
京都の日常を見直す
京都に暮らして約6年。ヨーロッパの街を巡るたび、この街との意外な共通点を感じるようになったそうです。
「京都は景観条例があって、古い建物や街並みを大事にしていますよね。空も広く見えますし、都会と自然が近い。その感覚は、ヨーロッパの都市とすごく似ていると思います」
日本の多くの都市では、建物が次々と建て替えられ、街の景色も変わっていきます。一方、京都やヨーロッパの街には、古い建物を活かし、すでにあるものを受け継ぎながら暮らしを重ねていく文化があります。今の生活に合わせて使い続けるその姿勢は、八尋さんのものに対する考え方とも重なります。
旅先の暮らしに触れると、自分が住む街も、それまでとは違った表情を見せるようになる。
デンマークでは、多くの家でカーテンが開かれ、窓越しに美しい家具や照明が見えたそうです。インテリアやデザインが特別なものではなく、日々の暮らしに自然と根づいている。その光景を目にしたことで、日本の日常と向き合い、自分たちの暮らしのなかで何ができるのかを考えるようになりました。
「旅先の日常と自分たちの日常を比べることで、初めて気づくことがあります。向こうで見たものをそのまま持ち込むのではなく、日本の暮らしの中でどう伝えていくかを考えるようになります」
旅とは、遠くの景色を見るだけのものではありません。離れた場所から自分の日常を見つめ、その価値に改めて気づく時間でもあります。だからこそ、京都を巡る日々もまた、八尋さんにとって旅の延長にあるのでしょう。
旅に持っていくのは、信頼できる一足
今回、八尋さんが着用したのはKEENのTARGHEE。実は5年以上前にも、ローカットのTARGHEEを愛用していたという八尋さん。新しいものを次々と手にするのではなく、気に入った一足を長く履き、その時間ごと自分のものにしていく。そんな付き合い方は、彼のヴィンテージに対する価値観にも通じています。当時、街でも履けるハイキングシューズを探していたことが、手に取るきっかけでした。
「ハイキングが好きだったので、トレッキングシューズほど本格的ではなく、街でも履けるものを探していました。デザインもちょうどよくて、そのときに選びました」
久しぶりに履いたTARGHEEは、以前愛用していたモデルより軽く感じられ、八尋さんの足にも自然にフィットしたといいます。
「僕は足の甲も幅も広いんですが、窮屈さがなくて足によく合います。単色のカラーも好きなので、服に合わせやすいですし、街中にも溶け込みやすいデザインだと思います」
京都の石畳から河川敷まで歩くうちに、街と自然の距離が近いこの土地に適した一足だと実感したそうです。そのまま山にも入れる機能性を備えながら、街中にも違和感なく馴染む。京都での日常はもちろん、海外への旅にも連れていきたいと話します。
買い付けの旅では、最終的に20〜30kgほどの荷物を背負うこともあります。重い荷物を持って移動する際には、柔らかすぎるソールよりも、沈み込みにくく足元をしっかり支えるものが必要です。
「ソールが柔らかいと、重い荷物を持ったときに沈んで疲れてしまいます。このくらいしっかりしている方が歩きやすいですし、足をホールドしてくれる安心感もあります」
旅に持っていく靴は、基本的に一足だけ。歩きやすさや機能性に加え、さまざまな服装に合わせられることも欠かせない条件です。
「ショートパンツにも長いパンツにも合わせられて、街も自然も歩けることが大事です。旅では一足しか持っていかないので、使いやすさと合わせやすさの両方で選びます」
明確な目的に応える設計を備え、使い手の時間に長く寄り添えること。TARGHEEが20年にわたって愛されてきた理由は、八尋さんが道具に求める価値と重なります。
旅も道具も、
時間とともに枝葉を増やしていく
旅も道具も、最初から完成しているわけではありません。旅に出るたび、さまざまな景色や人に出会い、ものを使い続けるほど傷や色の変化が刻まれていく。その一つひとつが枝葉となり、自分だけの物語を育てていきます。
「旅も道具も同じだと思います。幹があって、そこに枝葉が増えていく。いい道具であればあるほど、長い時間に寄り添ってくれる存在になります」
旅を重ねることと、道具を長く使うこと。両者に共通するのは、確かな目的を持ちながら、時間のなかで思いがけない経験を受け入れ、自分なりの物語を積み重ねていく姿勢です。
揺るがない幹があるからこそ、枝葉は自由に広がっていく。旅も道具も、時間を重ねるほど、その人だけの物語へと育っていくのでしょう。
八尋さんはこれからも、旅先での出会いを枝葉のように重ね、その中心にある大切な価値を確かめながら歩みを続けます。
八尋 鶉Yahiro Uzura
京都で〈form 歩く鳥〉を営み、北欧をはじめとするヨーロッパ各地で買い付けを行う。旅先では街を歩き、その土地の暮らしや文化、ものが生まれた背景に触れながら、自身の感覚で品々を選ぶ。作り手の意思や経年変化に価値を見いだし、長く使い続けられるものを紹介している。
TARGHEE EXP WP
重量:467g(27cm片足)
旅を重ね、物語を育てていく一足
耐久性に優れたパフォーマンスメッシュのアッパーに、防水透湿メンブレン「KEEN.DRY」を搭載したTARGHEE EXP WP(ターギー イーエックスピー ウォータープルーフ)。外からの水を防ぎながら靴内のムレを逃がし、多方向に配置されたラグが、舗装路から土、砂利、岩場まで安定した歩行を支えます。落ち着いたカラーリングで幅広い装いに合わせやすく、重い荷物を背負うこともある旅先で一足を履き続ける八尋さんのスタイルにも自然に馴染みます。街から自然まで、さまざまな環境を歩く時間に寄り添う一足です。