川で遊んで、川を守る。― 青梅リバークリーンマラソンと、KEENのLeave No Trace
川で遊んで、川を守る。― 青梅リバークリーンマラソンと、KEENのLeave No Trace

川で遊んで、川を守る。― 青梅リバークリーンマラソンと、KEENのLeave No Trace


ラフトに乗って川を下りながら、ゴミを拾う。集めたゴミの重さで、順位を競う。「青梅リバークリーンマラソン」は、そんな、遊びとリバークリーンが同居したレースです。掲げているのは、「ラフティングを楽しみ、川を綺麗にする」というコンセプト。KEEN Effectの一環として、KEEN JAPANもチームで参加しているこの大会が、2026年5月17日、御岳から青梅までの多摩川で、第12回を迎えました。


拾うほど、川は澄む

はじまりは、2019年10月の台風19号でした。増水が引いたあとの御岳渓谷には、おびただしい量のゴミが流れ着き、見慣れた川辺の景色をすっかり変えてしまった。そう教えてくれたのは、大会ディレクターの柴田大吾さんです。その光景を前に、柴田さんたちが始めたリバークリーン活動は、いまでは7年目を数えます。回を重ねるごとに人の輪は広がり、これまで11回で集めたゴミは、累計10,965kg。目に見えるゴミはずいぶん減りましたが、まだ手つかずの場所も残っているといいます。

舞台は、御岳から青梅までのおよそ10km。合図とともに、チームのラフトがいっせいに川へ漕ぎ出します。流れを下りながら川ごみを拾い、ゴールでその重さを計る。順位は、集めた重さで決まります。拾ったゴミは、燃えるものは赤、燃えないものは緑の袋へ。ラフトの上で、手が自然と分別を覚えていきます。二人がかりでも運べない重たいゴミは、無理をせず場所を記録して、後日の回収にまわします。エイドには通過の関門時間があり、飛ばせば減点、ゴールに遅れても減点。ゆるやかに見えて、レースの骨組みはきちんとしています。競い合いといっても、無理は禁物。安全に楽しむことが、なにより大切にされています。

ただ、黙々とゴミを拾うだけの大会ではありません。コースには、アヒルのおもちゃがひそかに隠されていて、見つけてゴールへ持ち帰ると、その体に書かれた数字が、そのまま重量に足されます。隠し場所のヒントは、“川ゴミをよく目にする場所”。アヒルを探すうちに、ゴミの溜まりやすいポイントが、自然と頭に入っていく仕掛けです。同じ種類のゴミがペアやトリプルで揃えばボーナスがつき、川で拾ったサンダルの左右がめぐり会う「奇跡の再会」には、特別ボーナスまで用意されています。判定を下すのは、「リバークリーンおじさん」こと柴田さん。夢中で競っているうちに、川は少しずつ、澄んだ表情を取り戻していきます。

川と、豚汁と、仲間と

このレースの何よりの魅力は、なんといっても、「行った人が、みんな楽しそう」なところ。ただ、この楽しさには、すこしだけ続きがあります。遊んだ一日が、そのまま川のためになっている。帰り際に振り返ると、川が今朝より澄んで見える。その手応えが、みんなの表情ににじんでいます。 五月の奥多摩は、新緑がいちばん濃くなる季節です。山の緑が水面に映り、澄んだ流れが光る。そのなかを仲間とラフトで下る時間は、それだけで特別なものです。途中のエイドでは温かい軽食がふるまわれ、ゴールには豚汁とおにぎりが待っています。マイ食器とマイ箸を持参するのが、この大会のお約束。一日たっぷり漕いだあとの一杯は、冷えた体にじんわりと沁みわたります。

今年集まったのは、8チーム。大学の地理学研究会もあれば、アウトドアブランドのチームもあり、KEEN JAPANからも「KEEN流され隊」「KEEN UP!」が漕ぎ出しました。KEENの2チームは、ふだん机を並べる同僚同士。それでも川の上では、肩書きを忘れて、ただ夢中でパドルを握ります。その空気は、ゆるくて、あたたかい。季節がめぐれば、また川へ。そんなふうに続いてきた大会です。 ラフティングが初めての人も、案じることはありません。経験豊富なガイドがそばにつき、当日には安全講習の時間もきちんと設けられています。きっかけは、御岳渓谷の景色でも、ゴールのあとに立ち寄る日帰り温泉でも、かまいません。川で思いきり遊びながら、その手で川をきれいにしていく。肩ひじ張らずに、その一員になれるのが、このレースの魅力です。

拾う前に、学ぶ ― Leave No Trace

マラソンに先立って、KEENでは2時間の「リバークリーン勉強会」を開きました。テーマは、Leave No Trace。頭文字をとってLNTとも呼ばれる、環境に与えるインパクトを最小限にして、アウトドアを楽しむための環境倫理プログラムです。 講師を務めたのは、柴田さんです。みたけレースラフティングクラブの代表として長く多摩川をフィールドにする一方、Leave No Trace Japanの常任理事として、その普及にも携わってきました。大会のつくり手から直接教わったことが、そのまま週末のレースへつながっていきます。

LNTは、堅苦しいルールブックではありません。外で遊ぶ人が、そのフィールドで明日もまた遊べるように。遊びつづけるフィールドを守るための行動指針です。興味深いのは、「良いか、悪いか」の二択ではなく、“どれだけ影響を小さくできるか”という濃淡でとらえること。すべてを完璧にやろうとしなくていい。今日できるところから、影響を一段だけ小さくする。その積み重ねを認める考え方です。世界のどこでも通じる7つの原則が、その土台にあります。 たとえば、原則のひとつめは「事前の計画と準備」。一見地味ですが、柴田さんいわく、これがいちばん大切なのだといいます。現場に着いてからできることは、思いのほか少ない。どんな場所で、どんな天気で、どんな危うさがあるのか。出かける前に知っておくことが、安全にも、自然を傷めないことにも、まっすぐつながっていきます。川なら、雨のあとの水量。山なら、日が落ちる時刻。知っているだけで、選べる行動が変わります。 見つけた石や生き物は、持ち帰らずに写真へ収める。焚き火の跡は、できるだけ残さない。そして、川から上がる前には、履いていたシューズやサンダルを洗う。濡れた靴底についた種や生き物を、次のフィールドへ運ばないためです。ちなみに、この日みんなで手にした「七原則カード」は、Leave No Trace JapanとKEENが一緒につくったものでした。

七つの原則には、ほかの利用者への配慮も含まれています。御岳渓谷は、釣りやボルダリングを楽しむ人も多いフィールドです。声をかけ、譲り合いながら、川を下っていく。マラソンの決まりにも「他のチームへの思いやりとスマイルを忘れない」とあって、勉強会で学んだことと大会のルールは、あちこちで重なっていました。 心に残ったのは、柴田さんが自身の“反省”まで、率直に語ってくれたこと。数百人が集うイベントを開き、気づかぬうちに自然へ負荷をかけてしまった経験。完璧な人などいない、だからこそ、少しずつ影響を小さくしていけばいい。その肩の力の抜け方も含めて、LNTのやさしさなのだと思います。 後半は、参加者みんなでのワークショップ。チームごとに原則をひとつ受け持ち、「実際のリバークリーンでは、どう動くか」を考え、持ち寄りました。紙の上の原則が、自分たちの言葉に翻訳されていく時間でした。学んで、すぐに試す。週末には、もう本番が待っていました。

履いて、濡らして、知る

シューズのほんとうの使い心地は、言葉だけではなかなか伝わりません。濡れた岩の上でどれほどグリップするのか、水に浸かってどう感じるのか、一日歩いた足がどうなるのか。実際に履いて、濡らして、使ってみて、はじめて分かることばかりです。 KEEN Effectの川の活動は、環境のためだけのものではありません。つくり手であり、届け手でもあるスタッフ自身が、自然のなかでKEENを履き込み、その手ざわりを、自分の足で確かめる場でもあります。岩を飛び、水に入り、ラフトを漕ぐ。濡れては乾き、また濡れる。一日でそれを何度も繰り返すのは、川ならではです。乾いたオフィスの中では決して出てこない実感が、そこにはあります。 使ったら、洗って、次へ。遊ぶことも、守ることも、道具を大切にすることも、ぜんぶ、地続きです。

Newport H2 - MONOCHROME/KHAKI

 

11トン分の、楽しさ

拾ったゴミの重さは、そのまま「川がきれいになった重さ」です。遊びに来て、拾って、笑って帰る。その繰り返しが、12回目の今回の活動で、11トンを超えました。 それでも、川のゴミはゼロになっていません。連休のあとの河原には、バーベキューのゴミが目立つこともあるといいます。拾って終わりにせず、そもそもゴミが川へ流れ出ない環境を、どうつくっていくか。この大会は、そんなことをみんなで考える場にもなっています。 とはいえ、気負う必要はありません。一日、川で遊んで、楽しかったらまた来る。遊んだ川は、いつのまにか、他人の川ではなくなっています。11トンのゴミを動かしてきたのは、義務感ではなく、その楽しさでした。 川で遊んで、川を守る。学んで、また遊ぶ。澄んだ川と、心地よい仲間と、湯気の立つ豚汁が待っています。次はあなたも、その一艇に乗ってみませんか。



【商品紹介】

Newport Collection