登山道整備を通して見えてきた、山と社会が抱える課題 - 2026/07/09
KEEN JAPAN合同会社は長野県小諸市と自然保護を主体とする連携協定を2026年5月29日に締結しました。そしてその初回の活動として浅間山麓・黒斑山エリアの一部登山道の整備を行うと聞き、私自身がとても好きで何度も歩いた山という事もあり、今回参加させて頂きました。

登山道整備に参加する前、私にとってその活動は「自然を守るために必要なこと」という知識としての理解はあり、整備をして頂いている方々にも感謝の念がありました。しかし実際に現場で汗を流し、傷んだ道を補修する経験をしたことで、その考えは大きく変わりました。登山道整備は単なる自然保護活動ではなく、さまざまな社会課題と深く結びついていることを実感したのです。

整備を経験して最初に変わったのは、山の歩き方でした。以前は遠くの景色や山そのものの自然を楽しみながら山頂を目指したり歩くことが中心でしたが、今では「なぜ登山道がえぐれ、高低差があるのか」、「どこに足を置けば道を傷めずに済むだろう」と自然と考えながら歩くようになりました。
一つひとつの石や排水路には理由があり、それらは人が安全に歩くためだけでなく、植物や土壌を守るための工夫でもあり、実際に整備に携わったからこそ、登山道が自然と人との共存を支える大切なインフラであることを理解できました。
一方で、その裏側には私が想像していた以上に大きな課題がありました。日本の多くの登山道は、国や自治体が一元的に管理しているわけではありません。歴史的な経緯や制度上の曖昧さから、山小屋の方々や地域のボランティア、地元有志の善意によって維持されている場所が数多くあります。

さらに近年は、豪雨や大型台風など気候変動の影響によって登山道が大きく崩壊するケースも増えています。一度崩れた登山道を復旧するには専門的な知識と多くの労力、そして資金が必要です。それでも管理責任の所在が明確ではないため、迅速な対応が難しい場所も少なくありません。こうした状況を知り、登山道の維持は「山好きな人たちの活動」ではなく、社会全体で考えるべき課題なのだと感じました。

また、人気の山に登山者が集中する問題も深刻です。多くの人が同じルートを歩くことで植生が失われ、土壌が流出し、登山道はさらに傷んでいきます。そのため自然への負荷を最小限に抑えるトレイルワークや、持続可能な登山道づくりの考え方がこれまで以上に重要になってきます。
こうした課題は決して山だけの問題ではありません。登山道が荒廃すれば、安全性が損なわれるだけでなく、その山を訪れる人も減り、登山口のある山村の観光や地域経済にも影響します。反対に、登山道が適切に整備され、美しい自然環境が守られれば、人が集まり、地域に仕事や交流が生まれます。登山道は単なる「道」ではなく、人と自然、そして地域をつなぐ社会基盤なのだと感じています。


伐木された丸太や整備道具を私自身の手で登山口からメンバーと協力して担ぎ、土や木端を運び敷き詰め、汗を流しながら整備を経験したことで、「今、自分が歩いている道は誰かが守ってくれたもの」という意識をより強く持つようになりました。そして、自分たちが整備した道もまた、数年後、数十年後に山を訪れる誰かへ受け継がれていきます。それは未来への贈り物であり、次の世代へバトンをつなぐ行為でもあります。

(左)実施前 (右)実施後
これはKEENが掲げるConsciously Createdの精神と通ずるものがあり、私が日々靴作りを通して常に意識・体現している事だと気付きました。
社会課題という言葉を聞くと、どこか自分とは遠い話に感じてしまいがちです。しかし登山道整備を通して学んだのは、社会課題は現場に足を運び、自分の手を動かした瞬間に「自分ごと」へと変わるということでした。これは靴作りでも同じで、現場に入る事で「自分ごと」へと変わります。
一本の登山道を守ることは、美しい自然を守るだけではありません。地域を支え、人を守り、未来へ価値を受け継ぐことにもつながっています。
私も今回の経験を通じて、山を「利用する人」ではなく、「未来へつないでいく一人」として関わっていきたいと考えるようになりました。
それこそが、登山道整備が私に教えてくれた最も大きな学びであり、私が山や自然から得てきた事への恩返しであると感じています。
*参加団体: 環境省、NPO法人富士トレイルランナーズ、浅間高峰観光協議会、 一般社団法人ディバースライン、小諸市、KEEN JAPAN合同会社